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TransToach

Toachによる小説イラストブログ。 TS物を中心に書いていこうと思っています。 ばらばらに書いているので、 まとめ読みする時は小説一覧からどうぞ

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懇親会

外を出歩こうが買い物をしようが気分は晴れなくて、結局すぐに帰ってきた。

あいつはといえば、ずっと黙ったままだ。
ふさぎこんだ気分は宿主である俺にも直接伝わる。
これはたまらない。

俺が言いすぎたのは確かだし、我慢するしかないか、と思った時だった。

べちゃっ
と、豆腐の落ちるような音がした。
それも俺の、すぐ近くで。
驚いて足元を見ると、真っ赤で崩れた豆腐みたいなものがうごめいている。
俺はこれに見覚えがあった。
身体からぽっかりと、何か抜け落ちたような気がするのが、何よりの証拠だ。

「…うわっ!?お前!」
足元にいるのは、さっきまで俺に寄生してたはずの物体だった。
赤い塊は身震いをひとつすると、みるみるうちに縦に伸びた。
顔の方に伸びてきたので、思わずのけぞる。

「え…な、何だ!?」
『…』
あっけにとられている間に、細長くなった塊から枝が生え、枝からさらに枝が生え、真ん中あたりが膨らんでいく。
これは、人間の形だ。
塊にはいつしか顔ができ、色もだんだん白い、人間の肌の色に近づいていく。
燃えるように赤い髪と目を持った、スタイル抜群の裸の女性が、目の前に立っていた。
無機質な声からなんとなく男性をイメージしていたので、意外だな、と思っていると、そいつが話しかけてきた。

『迷惑をかけた』
「…!」

『出ていくよ』
「ち、ちょっと待て!」
そっけなく言い残して出て行こうとするので、思わず引き留めた。

『うわっ』
軽く手をとって引っ張っただけなのだが、簡単に転んでしまう。

『二本の足で歩くのに慣れてないんだ、やめてくれ』「わ、悪い」

何故か謝ってしまうが、今はそんなこと気にしてる場合ではない。

「お前、外に出れたのかよ!それになんだその姿!どこに行くんだ!」
『質問はひとつにしてくれないか…』
女が、よく知った口調で、かぶりを振る。
間違いなく先ほどまでの同居人だが、形が見えていると全く印象が違う。
特にいまの困ったような顔は、すこぶる魅力的だ。

『まあ、全て答えはひとつだ。無理したら出られる、だ』
俺の顔に、わからない、と書いてあったのだろう。女は続けた。

『まず君に寄生した時点で、私は「寄生態」とでもいう状態に変態していた。その状態で君の身体から出るのは、私にとって大きなリスクを伴う』

『加えて私は、寄生態から元に戻ることができない。これでは外に出られない。仕方なく居候をしていたが、出てけ、と言われてしまった』
身振り手振りを加えて熱弁してくれるのはいいのだが、動くたびに裸の乳が揺れるので、目のやり場がない。

「あ、ああ。で、そんな身体で、これからどうするんだ」

『とにかく次の宿主を見つける必要がある。人の姿を模すことで少しの時間を耐えながら、住むところを探す』
「…」
それでは用は済んだ、とばかりにまた出ていこうとする女を再び引き留めようと、名を呼ぼうとして、俺は大変なことに気づいた。

俺は、こいつの名前を知らない。

何ヶ月も一緒にいて、死にそうな目にもあって、それなのに。

不可抗力とはいえ、当たり前に近くにいたから、何も知ろうとしなかった。

こんなんで、信用できないも何も、あったもんじゃない。

何より…このまま別れるなんて、できるわけがない。

気がつくと、そいつを、後ろから抱きとめていた。
首の後ろから回した腕を、しっかりと組む。

『…な』
「悪かった」

『…』
「さっきはひどいことを言って、悪かった」
腕の中で女が、びく、と震える。

「行くな」

「お前には聞きたいことがたくさんある」

「俺はお前の名前も知らない」

「だから、行くな」

『…勝手な人間だな』
ため息をつく。

『だが、確かにその通りだ。名乗ってもいないまま去るのは無礼と言うものだ』女が、自分の首に回された腕にそっと、白い手を添えた。

『それに、君の謝罪も受けた。今回は、私の無理解も原因だろう。すまなかった』

『名乗らせていただこう。ブロブのスラムドロニーム。スーラと呼んでくれ』

名乗りを受け、緊張していた俺の腕から力が抜け、初めて自分が緊張していたことに気づく。
形のない存在だった同居人が、こうして名前を持って、触れる身体も持っている。
それが無性に嬉しくて、緊張していたのも手伝って、俺はスーラに抱きついたまま、笑いだしていた。

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